2018-12-21

本連盟は、平成31年10月の消費税率引き上げに伴い導入される軽減税率制度に関する制度的問題点を指摘すると共に、引き続き同制度導入に反対する姿勢を示すことを目途に、以下のとおり本連盟の見解を策定し、常任幹事会において機関決定しました。

今後は、各支部において会員が参集する機会に配布し、広く周知することを予定しています。

                                     平成30年11月30日
東京税理士政治連盟

            軽減税率制度導入の制度的問題点と導入に反対する理由について

1.財源について
軽減税率の導入にあたって1兆円の財源が必要とされている。
この手当として0.4兆円については総合合算制度の導入を取りやめることにより確保は済んでいるようである。しかし総合合算制度は低所得者の医療費等の負担を軽減する目的で導入が予定されていたものであり、社会保障をカットするものであるとの意見もある。残りの0.6兆円についてはまだめどが立っていない。
平成28年1月14日の衆議院議員山出和則氏の質問主意書に対し、安倍総理大臣は「消費税の軽減税率制度の導入に当たっては、「平成二十八年度税制改正の大綱」(平成二十七年十二月二十四日閣議決定)において、財政健全化目標を堅持するとともに、社会保障と税の一体改革の原点に立って安定的な恒久財源を確保するため、平成二十八年度末までに歳入及び歳出における法制上の措置等を講ずること等としている。」と答弁をしている。
しかしながら今年9月6日の日経新聞によると、宮沢自民税調会長はインタビューに応じ、「昨年の税制改正で決めた所得増税とたばこ税の引き上げ分を充てる案がある。候補の1つである…金融所得課税の税率引き上げには「経済に力強さがないことも踏まえる必要がある」一部の財源は確保できているものの残りについては精査する」と答えており、財源の目途が未だ立っていないことを語っている。

2.指摘される給付付き税額控除の問題点について
軽減税率制度に代わる逆進性対策としての「給付付き税額控除」については所得の把握の困難性が指摘されている。国税当局は課税最低限以下の者の情報を有しておらず、市町村等社会保障関係事務を実施している機関との連携が必要となると言われている。
しかしながら現在「臨時福祉給付金」制度が実施されており、この制度は「平成26年4月に実施した消費税率引き上げによる影響を緩和するため、所得の少ない方に対して実施するものです」とすでに給付金支給が行われているのである。さらに、消費税10%時には「年金生活者支援給付金」として月額5,000円が給付されることになっている。すでに給付金制度は実施されているのであり、指摘される問題点は解消されている。

3.消費税の持つ逆進性対策としての効果
「軽減税率は低所得者の負担を軽くする目的で、食料品などを増税対象から除く制度」(日経新聞9月6日)と言われているが、高額所得者の方が軽減税率による税負担軽減効果は大きくなる。この点については既にいろいろな場面で税理士会の見解を表明しているので詳細は省略する。

4.軽減税率対象品目の判別が複雑である
この点についても既にいろいろな場面で税理士会の見解を表明しているので詳細は省略する。

5.新聞業界は隠れ補助金をもらい、外食産業は負担増となる
一定の新聞は軽減税率対象業種となる。売上は8%課税、原価については10%課税であり、必然的に消費税の納付税額は少なくなる…還付になるかもしれない。いわゆる隠れ補助金と言われるものであり、EUではこの隠れ補助金が問題となっており、軽減税率廃止の議論の発端となったものである。
一方外食産業については売上については10%課税であり、主たる原材料である食料品は8%で仕入れることになる。必然的に納税額は増えることになる。

6.陳情合戦
一定の新聞が軽減在率対象業種となったことにより、雑誌業界も軽減税率対象業種とせよと陳情を行っている。
米国連邦税に消費税(付加価値税)が導入されていないのは、付加価値税を導入すれば「免税措置の要求が行政を混乱させ、分配上の不公平をもたらす」と米国財務省が報告書で導入を否定した結果である。我が国において軽減税率制度導入後に経済団体からの政界、官僚を巻き込んでの陳情合戦が生じるとすれば、米国財務省の判断は賢明であったこととなる。
今後もいろいろな場面で軽減税率対象業種となるべく陳情が繰り返されることとなると推測する。

7.付加価値税が導入されている国の軽減税率導入の状況
1990年から94年にかけて付加価値税を導入した国
単一税率 31カ国 複数税率 15カ国
1996年以降付加価値税を導入した国
単一税率 25カ国  複数税率 5カ国

8.納税義務者である事業者の負担について
消費税の負担者は消費者であるが、納税義務者は事業者であり、納税義務を適正に果たすため、①税務コンプライアンスコスト(社員教育等)や②事務負担(帳票、帳簿の適正な記載)が増すことになる。財政基盤の脆弱な中小企業に消費税の増税に加えて更なる負担を課すべきではない。

9.軽減税率制度の導入に反対する
2014年に東京で開催されたOECDのVAT(付加価値税)フォーラムの共同宣言では、「軽減税率は低所得者対策として極めて非効率であると確認された」との文言で締めくくられている。
また、2011年11月に英国で公表されたマーリーズレビュ―では「VATを機能不全に陥らせた元凶は軽減税率制度であり、この制度は政治家が低所得者層にコミットしていることを示す政治的パフォーマンスで、採用すべき合理的理由は一切ない」と断じている。
税は簡素、中立、公平、であるべきであり、かつ明朗であるべきである。
政界、財界、官僚を巻き込む税制であってはならない。従って軽減税率制度導入に反対する。


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